2013年3月17日日曜日

調査結果の利用

早いものでもう年度末になりました。今年度は特に後半、ペースがずいぶん緩んでしばらくになります。これまでは、仕事の日の夜と休みの日はほとんど勉強して過ごしていたのですが、妊娠して以来この数か月、仕事の日の夜は何もせずのんびりリラックスモードになってしまいました。妊娠がこんなに眠いなんて。研究も大事だけれどプライベートも大事、新たなリズムを探索中です。

帰国して3年半、病院の産婦人科病棟で働いてきましたが、4月からは大学に勤めることになりました。研究職なので、勤務時間中に自分の研究も少しはさせていただける予定。今年度、思ったように進められなかった分、4月以降には研究に時間を使えそうな見込みでいます。新しい職場、良い出会いがありそうな予感。楽しみです。

この3年半を振り返ると、体力不足、まとまった時間不足で、論文もほとんど書けず、研究といってもデータ収集・集計・ウェブサイトづくりなど、作業のようなことしかできませんでした。留学中はなんてゴージャスな時間・環境だったんだろうと思います。でも、実際に目の前にいる人のニーズに応えることを優先して過ごしたこの3年半は、あくせくして過ぎてしまったけれど、不特定多数の人へ情報提供することに劣らない、かけがえのない時間になりました。これからも、現場と研究、個別と普遍のギャップを橋渡しするような働き方をしていきたいです。

このウェブサイトはもともと、研究に協力してくださった方々へ結果をお返しをするつもりで立ち上げました。なのでご報告なのですが、最近、産後ケアなどがメディアなどで取り上げられることも増える中、この調査の結果は間接的にですが利用していただいています。番組で調査結果を使わせてもらうかもというテレビ局からのお問い合わせも何件かいただきました。ただ実際に放映されるかというと、やっぱりこの調査は小規模だし、私の研究の力不足もあり、限られた時間に優先して放映するほどのインパクトもないみたいで(笑)、実際には制作者の方々の予備知識としてお役に立っているようです。それでも、「産む女性がこんな体験をしている」という調査結果はなかなかない貴重なデータなのは確かで、この研究にご協力くださった方たちの「社会を良くするために使ってほしい」という思いは、目に見えない形ですがしっかり社会を良くするために利用されていることをご報告させてください。改めて感謝申し上げます。

2013年2月28日木曜日

祝創刊!雑誌『TRAUBE』

友人の三木かよこさんが、新しい雑誌「TRAUBE」を始められました。助産師をつなげ励ます雑誌です。創刊号では、映画Freedom for Birthを特集。Toni Harman監督へのインタビューも掲載したりと、読みやすいながらも骨のある内容で、また何よりも、絵やイラストがすごいんです・・・!これからも三木さんの才能とアイディアをたくさん見せていただけるのが楽しみ☆


ホームページ(coming soon):www.traubemagazine.com

ツイッターアカウント:@traube_mag

この雑誌の構想をお聞きしたのは確か昨年の12月くらいでした。雑誌をつくるというプロジェクトを楽しそうに一生懸命やっている三木さんを見て、ずーっと前にある先生から聞いた意外な言葉を思い出しました。

「やらなくてもいいことを一生懸命やるから偉いんだよ。」って。言われたことをやる、やらなければいけないからやる、のではなく、別にやらなくてもいいかもしれないようなことを一生懸命やるから意味がある。いつもどこか心の支えになっている言葉です。三木さんに贈ります。

2012年12月17日月曜日

映画「出産の自由を求めて」無料短縮版の公開

Freedom for Birthという映画の無料短縮版(15分)が公開されたので、よろしければぜひご覧ください。YouTubeの画面で右下のccというところから日本語字幕が選べます。

http://youtu.be/D7c8UxbT7CU

背景の異なる欧米の映画なので、すべてに賛同しなくても良いと思います。
それでも、貴重な情報の詰まった、意義ある映画だと思います。

自宅出産を特に推奨するのではなく
助産師を持ち上げるのでも 医師を批判するのでもなく
さらなる訴訟を奨めるのでもなく
ただ、産む女性がエンパワーされるといいです。

海外のおばちゃんたちが、女性のためにこんなに頑張っていること、人権という新たな視点でお産のケアを考える動きが出てきたことをお伝えしたくて日本語訳をしました。どんなご感想もウェルカムです☆

先日、尊敬する先生が、授業でこの映画を観せてくださって、学生さんたちの感想を読ませていただく機会がありました。周産期ケアの専門家でもないし、母親でもない、大学2~4年生の女子大生が、この字幕だらけのタフな映画を1回観ただけでしっかりと内容を理解されていて、本当にびっくりしました。

「ヨーロッパやアメリカは福祉や人権保護の制度が進んでいると思っていたのにショック」という感想、「出産の自由がある日本に生まれて良かった」「でも日本がこの方面での理解が深い故なのかといえばそうとは限らない、もっと勉強しなければ、気をつけなければ」という意見、「なぜそこまで自宅出産や自然出産にこだわるのか、正直よくわからない」という感想、どれも本当にもっともでした。

映画の制作者のウェブサイト: http://www.oneworldbirth.net





2012年11月30日金曜日

Childbirth Connection 95周年とLtM-III調査

この「ママの声」調査は、アメリカのニューヨークにあるChildbirth Connectionによる「Listening to Mothers」調査の日本語版です。Listening to Mothers調査は、妊娠・出産についての女性の生の声を集めたアメリカの初の全国調査で、Listening to Mothers-Iが2002年におこなわれ、さらにListening to Mothers-IIとして2006年にもおこなわれました。このウェブサイトの日米比較は、2006年版のアメリカのデータと比較しています。

この調査の3回目、Listening to Mothers-IIIが2013年に実施されるというニュースを見つけました。実現できそう、ということはChildbirth ConnectionのディレクターDr. Carol Sakalaより、今年の初めくらいに聞いてはいたのですが、とうとう決まったようでとても楽しみです。

Childbirth Connectionという組織は、もともとMaternity Center Associationという名称で知られたNPOで、1918年に設立された歴史ある組織です。来年は95周年になるそうです。

https://childbirthconnection.org/95years/index.html

来年が楽しみ。

2012年11月21日水曜日

映画「出産の自由を求めて」 その後

先日ご案内した「Freedom for Birth(邦題:出産の自由を求めて)」の多言語字幕付きDVDが購入できるようになりました。日本の場合はNTSCタイプをお選びください。

DVD購入ウェブサイト:
http://www.freedomforbirth.com/dvd

☆自宅での個人的な家庭鑑賞用(Personal Home-Use)US$32.5

☆図書館、学校、大学に設置する場合。公の場で上映するライセンスも含みます。(Institutional-Use):US$160

☆両親学級などで使う場合。公の場で上映するライセンスも含みます。(Educational-use & Public screenings):US$80

☆既に個人家庭観賞用を持っていて、クラスや上映をする場合のライセンスにアップグレードする場合。(Public Screening / Educational Upgrade):US$47.5


制作者のToniたちは営利目的の映画制作者ではないですし、できるだけ多くの方に観てほしいと思って映画を作っている方たちです。だったらDVDをダビングしてはいけないのかな?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、次の作品を作るための資金になるので、お金に困っていなければ購入していただけるよう私からもぜひお願いします。

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また、先日より、欧州議会への嘆願書が準備されています。もう少しで5000人の署名を達成しそうです。ヨーロッパ市民が主役ですが、海外からも参加できます。もし、ご関心があればご参加ください。嘆願書の日本語訳は下記をご参照ください☆

嘆願書署名ウェブサイト:
https://www.change.org/petitions/human-rights-violations-in-european-maternity-care

この嘆願書を準備しているHuman Rights in Childbirth (HRiC)という組織は、映画の中に出てくる弁護士の方(Hermine Hayes-Kleinさん)が中心になっています。今年の5/30-6/1にハーグでおこなわれた出産人権会議の中心人物のおひとりです。現在、志を同じくする方どうしを世界中でつなげようと、マップを作ろうとされています。日本国内で、産む女性が大事にされる出産、産む女性の権利のために活動していらっしゃるグループや組織をご存知でしたら、ぜひお知らせください☆ 立派な組織ではなく小さなグループでももちろんかまいません。
メール mamanokoe☆gmail.com
(☆→@マーク)

Human Rights in Childbirth (HRiC)のウェブサイト:
http://www.humanrightsinchildbirth.com/


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ノルウェーでは今月、自宅出産についての国のガイドラインができたそうです。一方で、自宅出産に警鐘を鳴らすのですがそれでも病院出産でできるだけ家庭的な雰囲気を大事にする風潮がアメリカ産婦人科学会の最近の記事にあるようです。

映画の中でも言われていることですが、すべての女性が自宅で産むべきだなんて誰も思いません。同一のゴールを目指す上で、いろんな方法があるべきです。重要なゴールとは、どこで産んでも、どこで育てても、母親の仕事ほど大事なものはないということが社会で認識されて、女性が大人として扱われ尊重されることであり、これらの動きはそのためのアプローチの1つ1つなのだと思います。

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<嘆願書の日本語訳>


Petition Letter
嘆願書

To the European Parliament
欧州議会 御中

We call on the European Parliament to take a critical look at childbirth practices in all its member states.
私たちは欧州議会に、そのすべての加盟国における出産現場の現状に注意深く目を向けていただくことを求めます。

Women across Europe face diverse maternity care systems, but they also face common problems. The overuse of medical interventions has made it increasingly difficult for women to achieve a physiological and spontaneous labor. Iatrogenic effects of these interventions are a real and frequent problem in countries across Europe.
欧州には多様な妊産婦ケアのシステムがありますが、共通の問題に直面しています。
過剰な医療介入のために、女性が生理的で自然な出産をすることがますます難しくなっているのです。それらの介入の医原的影響は、欧州の国々においてたびたび起こる切実な問題となっています。

In 2010, the European Court of Human Rights in Strasbourg stated, in the case of Ternovszky versus Hungary, that “the right to respect for private life includes the right to choose the circumstances of birth”. However, many European States have systems of birth care in which women's physical autonomy is routinely violated and their options are rigidly circumscribed.
2010年、ストラスバーグの欧州人権裁判所は、トゥルノフスキーとハンガリー政府が争った裁判において、「個人の生活が尊重される権利は、どんな状況で出産するかを選択する権利を含む」との見解を述べました。しかし、欧州の多くの国では、女性の身体的な主体性が常態的に侵害され、また女性の選択肢がひどく制限されるような出産ケアの体制が存在しています。

The right to give birth outside the hospital is critical for all birthing women, whether they choose for hospital or home birth. The respectful treatment of women who do choose hospital birth can only be ensured if they have the option to walk out and deliver under a different model of care, even if they do not exercise that choice. A different dynamic is in place when a health care provider gives a recommendation with the knowledge that the woman can take or leave the advice, than when that provider believes that the woman can legally be forced if she doesn’t comply.
病院以外の場所で出産をする権利は、病院出産を選ぶか自宅出産を選ぶかに関わらず、すべての産婦にとって重要です。(訳者注:たとえ陣痛中であっても)病院を立ち去り別のタイプのケアを受けて出産する選択肢があってはじめて――実際にはそんなことを実行しないとしても――、病院出産を選ぶ女性が尊厳をもって扱われることが保証されます。医療者が女性に何か忠告をする時、「医療者の忠告を受け入れるか受け入れないかを女性自身がぶことができる、と医療者が認識している場合」と、「女性が医療者の言うとおりにしなければ、(訳者注:警察を呼んだりして)法的な手段を使ってでも強制できると医療者が信じている場合」とでは、医療者と女性の力関係が大きく異なってくるのです。

Observational studies of good quality have documented that planned homebirth is as safe as hospital birth for healthy women. Given the trends and protocols of institutional birth, home birth is often the only way that women in many nations can give birth without unneeded surgical and pharmaceutical intervention.
健康な女性の場合には、計画的な自宅出産は病院出産と同じくらい安全であることが、質の高い観察研究によって報告されています。 施設出産の傾向やプロトコルを考えると、多くの国の女性にとって、自宅出産は不要な処置や投薬を受けずに出産する唯一の方法であることが多いのです

However, many European States do not provide women with an easy access to homebirth services, and in fact many countries makes it incredibly difficult for women to give birth outside of a medical institution.
しかし、多くの欧州の国々では、女性が自宅出産のサービスにアクセスするのは容易ではありません。実際、多くの国は、女性が医療施設以外で出産することを驚くほど難しくしています

We urge the European Parliament to take Human Rights in Childbirth as its point of departure for an investigation and discussion of maternity care systems across the European member states.
私たちは欧州議会に、「出産における人権」を、欧州各国の妊産婦ケア制度についての調査および議論の出発点としていただくよう、強く求めます。 

Sincerely,
心よりお願い申し上げます。

HRiC
出産における人権(HRiC

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Japanese translation: Rieko Kishi, Brett Iimura, Hiroaki Fukuzawa
日本語訳: 岸利江子 飯村ブレット 福澤浩昭

2012年11月12日月曜日

3年ぶりのアカデミック・ハイ

11/1-9に3年ぶりにシカゴに行って来ました。

この調査のデータを使って博士論文を書いてくださった友人のディフェンス(口頭発表&試験)の応援に行って参りました。他にも、滞在中に親友の結婚式に出席したり、この研究についてアドバイスをいただくミーティングをしたり、論文執筆についてのカジュアルなパネルディスカッションに出席したり、旧友に会ったり。3年前まで住んでいたアパートに滞在させていただいて、超多忙ながらもハッピーな時間を過ごせて、リフレッシュできました。

4人のお子さんをもちながら博士課程を見事に終えられた、スーパーママの敬子さん。私が最も尊敬する友人のおひとりです。今回一緒に旅行ができてとても楽しかったです。

研究の二次分析には独特の難しさがあるようです。方法論もあまり発達していません。他の人がデザインしデータを集めた研究を生かすというのは、「話すより聴くことの方が実は難しい」というのと似ているのかも?と思います。
「これから妊娠・出産する女性の役に立ちたい」という気持ちでこの調査に参加してくださった方々の思いを感じてくださり、出産で傷つく女性がいなくなるように、幸せな気持ちで産後を過ごされるように、とこれまでの日本の研究になかった視点で、データに誠実に取り組んでくださいました。
これから日本でこの研究を続けていく上でかけがえのないパートナーを得て心強く、感謝です。




日本から海外へ留学する人が減っているのは全体的な傾向だそうですが、私が留学していたイリノイ大学シカゴ校でも、今回の友人を最後に、日本人在校生がいなくなってしまいました。3年後に大学を訪れたら、先生方も友人もすっかり入れ替わっているのだろうなと想像して、少し寂しい気持ちになりました。


この調査をアイルランドでおこないたいと計画してくださっている研究者の方とは、その後も連絡が続いていて、せっかくなのでヨーロッパの複数の国々でおこなうことを考えていらっしゃるそうです。実現したらと思うと楽しみです。


先日ご紹介した「Freedom for Birth」の映画は、間もなく15分バージョンが無料で公開されます。


久しぶりに研究漬けになって、世界を身近に感じた9日間でした。

2012年9月24日月曜日

ドキュメンタリー映画「出産の自由を求めて」上映会

DOULA!の映画の翻訳をさせていただいたご縁で、先日は「Freedom for Birth」という映画(60分)の日本語訳をしました。日本語を含めて21ヶ国語に訳され、9/20(木)に世界中50カ国以上で、1000以上の先行上映会が計画されました。

制作者のToni Harmanたちは、他組織との何のしがらみもなく、言いたいことを言える映画を作っています。今回の映画は製作費のために20,000ドルの寄付を募った結果、世界各地から約40,000ドルが集まったそうです。

せっかく日本語版を制作させてもらえたので、日本でも1つくらい上映会をできたらいいなと思い、横浜駅近くのUmiのいえにお願いして上映会をさせていただきました。直前の告知にもかかわらず、遠方からお越しくださった方々、職場の同僚、妊婦さんなど、少人数ながらとても素敵なメンバーで感激でした。 

日本では、女性が産みたい場所(大学病院でも、開業医でも、自宅でも)を選んでも問題ないけれど、そうでない国もあるんだ・・・と、「日本って恵まれてるのかも」と有難く思ったり、「日本もこのままいくとこうなっていくのかな」と心配になったり。また、法律の整備ってどんな意味があるんだろう、とか、日本に合った方法は・・・、などいろんな感想が出そうな映画です。






決して、訴訟を推奨するわけではなく、何かと戦いたいわけでもなく、一定のお産の仕方や職種を持ち上げたいわけでもありません。日本は、ハイテクで経済大国でありながら、なぜ出産が海外ほどの医療化やビジネス化にならずに、世界最高レベルの周産期結果を実現することができてきたのでしょう。さらに、これからも大丈夫なのかな、もっと良くしたい場合はどこに改善の余地があるか、など、海外と比べて考えるための1つの情報になればと思って、日本語版を制作しました。


たとえば・・・インフォームドコンセント(チョイス)(情報提供に基づいた同意・選択)について、「ママの声」調査では、帝王切開を受けた女性に、インフォームドコンセントの体験について尋ねました。全体的に、説明はわかりやすく(94%)、説明の量も十分だった(88%)のに、説明を聞いて安心できた女性は4割、自信をもってサインした女性は約5割でした。<リンク
不安な中の帝王切開なので100%安心することはできなくても、何か改善の余地があるのかもしれません。前回のトピック、defensive medicineに関連する問題ではないかと思います。

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以下は映画の情報




ヨーロッパを中心に海外の出産事情について
の映画です。ハンガリーの裁判、ミシェル・オダン氏、シーラ・キッチンガー氏、アイナ・メイ・ガスキン氏のメッセージなど。


海外の上映会の開催報告(フェイスブック)
http://www.facebook.com/oneworldbirth

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(映画より)


出産の際に、自分の権利、特に人権について
意識しない女性が多いと思います
しかし出産における人権侵害は
あまりに常態化しています

嫌と言えない状況にしたり 怖がらせたり
ゆがんだ情報を与えることで
その瞬間だけ正しいと思わせる判断を促すのは
間違っています

患者が大人として扱われず
「言うとおりにしなければ他に道はない」という
医療者からの一方的な会話が多く見られます
「自分が受けるケアについて話し合うのは
申し訳ない」と患者に感じさせることもあります
話し合いの中で怖がらせて
一定の選択を迫るように
導くことがよくあります
話し合う前から答えが決まっているのです

あなたが陣痛の最中に
産科医や助産師がそばに来て
「少し疲れているし陣痛も長引くし
帝王切開にしたいですか?」と尋ねたら
 「お願いします」と言うのはとても簡単です

いくら選択肢があっても
弱い立場で
赤ちゃんやお産のことが不安だったら
医師の言うことを何でも信頼して
言う通りにするでしょう
医療者は「もう少し待ってもいいけれど
同じことですよ
感染が起これば赤ちゃんにも危険ですよ
陣痛が長引けば大出血の危険もありますよ
夜中に疲れ果ててしまう前に
今すぐお産にするのが一番ですよ」
と言うかもしれません
選択肢があったとしても
一定の答えに導かれるのでは
 「情報提供に基づいた選択」とは言えないと思います



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女性は尊重され尊厳をもつべきです
出産の時に 愛され大事にされていると
感じなければいけません
母親の仕事ほど大切なものはありません
誇りを持つべきです

助産師も医師も
母親に代わって立ち上がることはできません
専門職にはできないのです
女性たち自身が出産のために
立ち上がる必要があります

良い助産師も医師も看護師もいます
でもシステムが壊れています
機能不全のシステムを止める唯一の方法は
すべての人々が声を上げることです

自宅でも病院でもどこでもいいのです
いつ どこで 誰と どのように産むか
すべての女性の選択を
今 応援しなければいけません

自分の娘たちや息子たちに
私が経験したような
喜ばしく 恍惚として 自由で 解き放たれるようで
楽しくて 大変で
めちゃくちゃで 困難なお産を
支えられ愛される中で体験してほしいのです
最後には生きる力が湧いてくるようなお産を

2012年8月31日金曜日

アメリカの助産

7月から最近まで、助産師学生向けテキスト改訂版のために「アメリカの周産期医療」についての小さな項を書いていました。アメリカの周産期ケアのシステムについて、留学中も体系的に学んだわけではなかったので、最新情報を色々調べて勉強になりました。

例えば助産師の制度については、現代の日本の助産システムは、敗戦後にGHQが改革をして以来、アメリカの影響を強く受けているのですが、その時期はちょうどアメリカで助産師の状況が最悪だったことはよく知られています。でもそんな中でも、現在主流の助産師制度につながる草分けが始まっていたり、もっと面白いことに、その結果、現在主流の助産師制度(認定看護助産師・CNM)だけでなく、それと競合するような助産師制度(認定専門助産師・CPM)も発達し、現在もお互いに刺激になり発達を続けていること、さらに無資格助産師も違法ではない州もあることなど、多様性や法律化がもたらすものについて、日本と比べて色々考える機会になりました。

また、「ママの声」では日本人女性とアメリカ人女性の周産期の体験を、個人レベルで比較していますが、今回は社会レベルの日米比較の知識を更新する良い機会になりました。

大事な赤ちゃんの健康のため、と言われれば、「念のため」に検査も処置もいろいろしてほしくなるのは母親の当然の心理かもしれません。日本の「ママの声」調査でも、「ぜひしてほしい」「なるべくしてほしい」を合わせると47.1%、「どちらでもない」が34%で、「なるべくしてほしくない」は17%、「絶対にしてほしくない」は1.9%でした。<リンク

でもアメリカ産婦人科学会やアメリカ助産師協会の最近の調査でも、「念のため」と勧める動機が、(ママと赤ちゃんのためというよりも)、「医療者が何かあって訴えられないために『念のため』」であることも多いのです。これはdefensive medicine(防衛的医療)といわれる問題で、訴訟の多いアメリカで問題になっています。
(日本でも、医療従事者が「訴えられたらどうしよう」という恐れをまったくもたずに働くのって簡単ではないのではと思います。)

エビデンスに基づく医療を推進するCochrane Library(コクランライブラリー)を設立したイギリスのArchie Cochrane氏が「産科学は最も科学的でない分野」と言ったことは有名です。周産期の医療介入の多くは、エビデンスに基づいておこなっているというよりも、ritual(儀式的)やhabitual(習慣的)におこなっているものも多く、必ず良い結果がもたらされるわけではありません。

また、検査や処置、投薬をすればするほどお金が儲かり、自然の力を信じて何もしないほどビジネスにならない、という現代医療の傾向があります。

その結果、「介入すればするほど、結果は悪くなる(doing more, accomplishing less)」という周産期パラドックスを抱えているアメリカの例から学ぶことはたくさんあると思います。産科における「念のため」の医療介入(検査、処置、投薬など)のあり方について考えさせられます。

日本とアメリカを比べると、日本は全体的に、過剰な医療介入も少なく、医療費も少なめで、新生児・妊産婦の死亡率もずっと少ない、という、「介入しなければしないほど、結果が良くなるdoing less, accomplishing more」という良いパラドックスをなぜか達成してきました。不景気とはいえ世界的に見れば全体的に裕福で、設備・技術も異常に整っている日本なので、過剰な医療に傾くのはごくたやすいのに、不思議なことです。
これは社会の人々(専門職も含めて)が「できれば自然が一番」という価値観(神道?)をもっていることも一因なのかなと思います。お産の苦しみの中にポジティブな意味を見いだそうとする価値観(仏教?)もあるかもしれません。
一方、万が一のミスも許せない完璧主義、「皆がやることは大丈夫」という集団心理など、日本の文化は独特の危うさも抱えていると思います。

2012年7月6日金曜日

会陰切開

会陰切開についての簡単な分析を追加しました。(リンク

陣痛の強さが十分でなく、赤ちゃんを急いで出さなくてはいけない場合や、産婦さんの会陰部の伸展に比べて赤ちゃんの頭が大きすぎる場合に、会陰切開がおこなわれます。

どんな女性に、会陰切開や縫合がされるかについて、
・経産婦さんほど切開・裂傷が少なくなる傾向がある
・しかし年齢が高くなるほど会陰切開は多くなる
・自然な陣痛が十分でなく急いで赤ちゃんを出す医療介入が多くなるに従い会陰切開も多くなる
という傾向がありそうです。

産後の症状との関連は、切開>自然な裂傷(縫合)>縫合なし(裂傷なしかごく軽度)の順に
・産後の痛みが強くなる
・気持ちがしずむ
・産後のセックスの満足度が低くなる
などの可能性があるかもしれません。しかし、結論を出すには、初産婦・経産婦の差などを考慮して詳しく分析する必要があります。例えば、会陰切開・縫合の有無に関係なく、初産婦にこれらの傾向がある可能性もあります。


経膣分娩で赤ちゃんが生まれるときに膣が伸びてゆるくなるせいで産後のセックスに悪影響があるかも、という不安を聞いたことがあるでしょうか?
会陰切開や、余分な縫合がされる理由になることもあり、「husband stitch(夫のための縫合)」と言われるものです。でも、女性にとっては、会陰切開や縫合によって、産後のセックスの満足度が少なくとも決して増してはいないみたい。

2012年6月19日火曜日

分娩様式(経膣分娩vs.予定帝王切開vs.緊急帝王切開)

お産が、経膣分娩(普通分娩と、吸引分娩・かんし分娩も含む)だったか、経膣分娩を試みて何らかの理由で緊急帝王切開でお産をしたか、前回帝王切開だったから、または逆子などの理由で予定帝王切開だったか、は、どんな要因が関連するのかを少し分析してみました。<リンク

私が特に気になっているのは、予定帝王切開の時期(赤ちゃんにとっての在胎週数)です。37週を超えれば、早産ではなく正期産と言われるのですが、今回の調査でも、予定帝王切開の多くが37週でおこなわれていました。赤ちゃんは最後の数週間でぐんぐん大きくなるので、37週で生まれる赤ちゃんは出生時の体重が平均200gくらい小さくなります。その結果、より未熟だったり、体重を気にして人工乳を足す率も増えます。

アメリカやカナダでは近年、予定日近くの最後の週までお腹の中で赤ちゃんは必要な神経学的な発達を続けているようだ、39週になるまでは待つべきで、そうでなければ保険会社も支払わないぞ、というほど方針が変化してきているようです。

しかし遅らせるリスクとしては、39週などまで待ったがために、破水や自然陣痛が38週などで起こることもたまにあります。逆子の経膣分娩やVBAC(前回帝王切開だった場合に経膣分娩を試みること)をしない方針の産院では、緊急帝王切開(あるいはそのための母体搬送)をしなければいけないリスクやコストを考えると、やっぱり正期産になる37週になったらできるだけ早めに予定帝王切開で妊娠を終わらせる方が安全、という考え方もあります。

小規模な産院が活躍している日本では、必要な時には30分以内などすぐに帝王切開をできるような施設が整っていないことが多いので、欧米のように赤ちゃん優先で39週まで待ったりできないのもシステムの問題で仕方ないのかも、と産科医の友人の意見を聞いて、なるほどそうかもと思いました。
産む女性は、どうしてほしいのでしょう・・・。

3年前に帰国して以来、産科病棟で、産科医、助産師、小児科医、NICUナースなど、いろんな職種の方たちが、それぞれ与えられた条件や組織の中で、お母さんたちと赤ちゃんたちの健康のために一生懸命働いていらっしゃる姿を目の当たりにしてきました。特定の見方で「正しい」「間違っている」とジャッジするのではない方法で、産科ケアの現状をより深く理解するために、「どんな周産期ケアを目指したいか?」「理想のケアをかなえられない理由は何だろう?」などの問いについて、今年度からListening to Providers(産科ケア提供者の声を聞く)という研究を始める予定です。うまくいくといいです・・・。


今回の調査Listening to Mothersの方は、先日、アイルランドのsocial policy分野の研究者の方から、アイルランド版を実施しようと思っている、とお問い合わせをいただきました。アイルランドは日本と同じく先進国の島国ですが、移民の影響もありベビーブームだそうです。いろんな国との国際比較が興味深いのでぜひ実現しますように。