2012年6月19日火曜日

分娩様式(経膣分娩vs.予定帝王切開vs.緊急帝王切開)

お産が、経膣分娩(普通分娩と、吸引分娩・かんし分娩も含む)だったか、経膣分娩を試みて何らかの理由で緊急帝王切開でお産をしたか、前回帝王切開だったから、または逆子などの理由で予定帝王切開だったか、は、どんな要因が関連するのかを少し分析してみました。<リンク

私が特に気になっているのは、予定帝王切開の時期(赤ちゃんにとっての在胎週数)です。37週を超えれば、早産ではなく正期産と言われるのですが、今回の調査でも、予定帝王切開の多くが37週でおこなわれていました。赤ちゃんは最後の数週間でぐんぐん大きくなるので、37週で生まれる赤ちゃんは出生時の体重が平均200gくらい小さくなります。その結果、より未熟だったり、体重を気にして人工乳を足す率も増えます。

アメリカやカナダでは近年、予定日近くの最後の週までお腹の中で赤ちゃんは必要な神経学的な発達を続けているようだ、39週になるまでは待つべきで、そうでなければ保険会社も支払わないぞ、というほど方針が変化してきているようです。

しかし遅らせるリスクとしては、39週などまで待ったがために、破水や自然陣痛が38週などで起こることもたまにあります。逆子の経膣分娩やVBAC(前回帝王切開だった場合に経膣分娩を試みること)をしない方針の産院では、緊急帝王切開(あるいはそのための母体搬送)をしなければいけないリスクやコストを考えると、やっぱり正期産になる37週になったらできるだけ早めに予定帝王切開で妊娠を終わらせる方が安全、という考え方もあります。

小規模な産院が活躍している日本では、必要な時には30分以内などすぐに帝王切開をできるような施設が整っていないことが多いので、欧米のように赤ちゃん優先で39週まで待ったりできないのもシステムの問題で仕方ないのかも、と産科医の友人の意見を聞いて、なるほどそうかもと思いました。
産む女性は、どうしてほしいのでしょう・・・。

3年前に帰国して以来、産科病棟で、産科医、助産師、小児科医、NICUナースなど、いろんな職種の方たちが、それぞれ与えられた条件や組織の中で、お母さんたちと赤ちゃんたちの健康のために一生懸命働いていらっしゃる姿を目の当たりにしてきました。特定の見方で「正しい」「間違っている」とジャッジするのではない方法で、産科ケアの現状をより深く理解するために、「どんな周産期ケアを目指したいか?」「理想のケアをかなえられない理由は何だろう?」などの問いについて、今年度からListening to Providers(産科ケア提供者の声を聞く)という研究を始める予定です。うまくいくといいです・・・。


今回の調査Listening to Mothersの方は、先日、アイルランドのsocial policy分野の研究者の方から、アイルランド版を実施しようと思っている、とお問い合わせをいただきました。アイルランドは日本と同じく先進国の島国ですが、移民の影響もありベビーブームだそうです。いろんな国との国際比較が興味深いのでぜひ実現しますように。

2012年6月1日金曜日

産後1週間の時点で母乳育児が確立する女性の特徴

産後1週間の時点で、母乳だけで赤ちゃんに授乳する女性の特徴について、今回のデータを使って少し分析してみました。リンク



• 経産婦• 若い• 妊娠中から母乳育児の意図あり • 自然な分娩 • 児の体重>3000g以上 • 産後1時間以内に母乳育児を開始 • 母児同室で頻回直母 • スタッフが母乳育児支援に熱心

これらの中には、相互関連する要因もありそうですが、独立した影響をもつものも多そうです。例えば、経産婦さんは当然年齢も高いことが多く、また、産科スタッフは「前のお子さんの経験が豊富だからきっとわかっていらっしゃるし」と、比較的ケアが少なくなる傾向があると思います。それでも経産婦は初産婦よりも母乳育児が確立しやすいみたい、など。経産婦さんはお産が軽かったり赤ちゃんの体重が大きくなることが多いので、そのことが産後の母児の体力・体調に影響しているのかな。いずれにしてもスタッフによるケアは大事そう、など。有意差を出して一般化・理論化するにはさらに統計分析や研究が必要な興味深いテーマです。